疾患モデル培養細胞のフェノタイプを人工知能(AI)で解析を行い、新たなターゲット分子探索や効果を持つ低分子化合物探索、ドラッグリポジショニングなどを展開しているバイオベンチャー
背景とテクノロジー:
・ターゲットベースの創薬を行うためには新たなターゲット分子を恒常的に見つけられるプラットフォームが必要だが、GPCRやキナーゼなどのターゲット分子はもう試され尽くしていて新たなターゲット分子を見つけるのが大変になってきている。そんな中、ターゲットベースの創薬の前に行われていたフェノタイプ(表現型)ベース創薬に注目が集まってきている。
・フェノタイプベース創薬とは疾患モデル培養細胞のフェノタイプを見出し、そのフェノタイプを正常細胞に近づけるターゲット分子を見出したり、候補薬を見つけてくるアプローチ。
・Recursion Pharma社では、このフェノタイプベース創薬とAIを組み合わせて、新たな創薬を行っている。具体的な方法については非公開だが、ウェブサイトから推測するに、培養した疾患モデル細胞と正常細胞の画像を大量に取得し、人工知能技術を用いて解析を行う、いわゆるHigh Content Analysisを行う。その結果から分かってきた疾患モデル培養細胞の特長を正常細胞の特長に近づけられるターゲット分子や承認薬、新規薬剤を見つけてこようというアプローチを行っているようだ。
・培養細胞の画像取得は自動化されていて、1週間で1000万細胞以上の画像を取得し、1ペタバイト以上のデータベースを構築している。
・疾患モデル培養細胞の画像データのみならず、遺伝子解析、プロテオミクス解析などとも統合して解析を行っている。
・疾患モデル培養細胞は、一遺伝子変異疾患を対象としている。患者さん由来iPS細胞からの分化細胞なども用いているかもしれないが、そのような記載はない。
パイプライン:
REC-0001571, REC-0000382。詳細は非開示。非臨床研究段階。
・脳海綿状血管腫
詳細は非開示。非臨床研究段階。
REC-0000716, REC-0001202。in vivo研究段階。
・神経線維腫症II型
REC-0001982, REC-0001317, REC-0001117, REC-0000355。in vivo研究段階。
・他にも探索段階には数多くのプログラムがあり、疾患も循環器、中枢、皮膚、がん、免疫、眼など幅広い。
最近のニュース:
武田薬品はRecursionのAI技術を用いて希少疾患治療に関する共同研究契約を締結。
Sanofi GenzymeはSanofiの臨床ステージの化合物に関してのドラッグリポジショニング研究をRecursionと行う共同研究契約を締結。
コメント:
・よくあるAIのバイオベンチャーはWetの研究は他社とコラボしたり受託で行っているが、Recursion社は社内でデータサイエンティストとWetの研究者が協力して仕事を進めているのが特長であり、他社との差別化ポイント。
・AI技術の難しさはビッグデータのクオリティがバラバラな時にあるという印象なので、Wetのデータを自前で生成することでデータのクオリティを一定化することができるのが大きい気がする。
・パイプラインには数多くの希少疾患が並んでいて、これだけの数がこなせるのはAI+自動化だからこそと言った感じがした。
キーワード:
・人工知能(AI)創薬
・フェノタイプベース創薬
・低分子化合物
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。