オックスフォード大学で見出された最新ワクチン技術の実用化を目指すバイオベンチャー。感染症に対するワクチンだけでなく前立腺がんなどへのがんワクチンの開発も手がけている。
ホームページ:https://www.vaccitech.co.uk/
背景とテクノロジー:
・ワクチンといえばポリオ生ワクチン、インフルエンザワクチンなど、弱毒化ワクチンや不活性化ワクチンがあるが、古典的なワクチンは、病原性を持つウイルスそのものを弱毒化/不活性化させて静脈中に打つことで免疫記憶を誘導する。
・それに対して最近のワクチン技術では、非病原性のウイルスベクターを用いて、抗原タンパク質を発現させる方法が開発されてきている。この技術を用いる場合、発現させる抗原タンパク質は病原ウイルスのタンパク質、がん細胞のタンパク質など、ウイルスベクターに依存せず様々な病気へ適応できる技術となる。
・Vaccitechが開発中のワクチン技術は、抗原タンパク質をコードする遺伝子を発現するチンパンジーアデノウイルスOxford(ChAdOx)ベクターで初回免疫を行う(プライミング)。ヒトアデノウイルスを用いない理由としては、ヒトアデノウイルスは、環境中から感染経験を持ちすでに中和抗体を保有する人がいるためで、一方チンパンジーアデノウイルスの中和抗体を持つ人はほとんどいない。そのためチンパンジーアデノウイルスを用いている。
・チンパンジーアデノウイルスによるワクチンは単回でも短期的効果を持つが、長期的には2回めのワクチン摂取をし、追加免疫効果を施したほうが効果が高くなる。Vaccitechでもこの追加免疫効果のために1回目と同じ抗原タンパク質をコードする改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)を開発している(2回目に異なるウイルスベクターを用いるのは1回目の投与後はチンパンジーアデノウイルスの抗体ができてしまい6ヶ月以上投与間隔をあけなければいけなくなるため)。この方法はheterologous prime-boost vaccinationと呼ばれる。
パイプライン:
・インフルエンザワクチン
核タンパク質(NP)とマトリックスタンパク質(M1)をコードする改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)。インフルエンザAウイルスのファミリー間で保存されているウイルスカプセルの下にあるマトリックス中にある抗原NPとM1を発現する。高齢者への予防医療目的。
開発中の適応症
・Phase 2
インフルエンザ
・前立腺がんワクチン
がん抗原5T4をコードする遺伝子を持つChAdOx1とMVAによるheterologous prime-boost vaccination。Phase2からは免疫チェックポイント阻害薬Nivolumabとの併用療法の予定。予防医療ではなく前立腺がん罹患者を対象とした治療。
開発中の適応症
・Phase 1
前立腺がん
・中東呼吸器症候群MERSワクチン
MERSコロナウイルス抗原を発現するChAdOx1の筋肉内投与
開発中の適応症
・MERS
・他にもB型肝炎(B型肝炎ウイルス)、子宮頸がん(ヒトパピローマウイルス)へのワクチンが非臨床開発段階にある。どちらもheterologous prime-boost vaccinationによる。
コメント:
・免疫やウイルスベクターへの理解が進む中で、これらの技術を駆使したワクチン療法の技術進歩が著しい。免疫療法の中では安価な選択肢を提供できる可能性がある。ワクチン療法は高額医療の救世主となるのだろうか?
キーワード:
・ワクチン、がんワクチン
・インフルエンザ
・前立腺がん
・ウイルスベクター
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。