StrideBio (Durham, NC, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第123回)ー

July 27, 2019

遺伝子治療に広く用いられているアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの、投与前から患者さんに存在する「AAV中和抗体」という問題を解決する構造生物学的キャプシド変異技術を持つバイオベンチャー

 

 

ホームページ:https://www.stridebio.com/

 

 

背景とテクノロジー:

・アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療の開発が進んでいる。Spark Therapeutics/Rocheのレーバー先天黒内障治療薬LUXTURNA™ (voretigene neparvovec-rzyl)や、AveXis/Novartisが開発した脊髄性筋萎縮症治療薬Zolgensma® (onasemnogene abeparvovec-xioi)は、それぞれ、2017年、2019年にFDAから承認された。

 

・この2社以外にもVoyager TherapeuticsREGENXBIOSolid BiosciencesLogicBio TherapeuticsSangamo TherapeuticsLysogenePrevail Therapeuticsなど、多くのバイオベンチャー・製薬会社がAAVベクターを用いた遺伝子治療の開発を行っている。

 

・AAVベクターの最大の利点は病原性がないこと、重篤な副作用が今のところ出ていない(懸念は報告あり)ことにある。一方で、課題もある。

①中和抗体の存在

現在臨床応用が進められているAAVはヒトもしくは非ヒト霊長類から単離されたAAVである。つまりAAVは通常環境中に広く存在していて、病原性がないことから感染しても気がつくことがない。そのため、生きていく中で気が付かないうちに感染し抗体(AAV中和抗体)を保持している可能性があり、健常な成人の半数以上が保持しているとも言われている。そのため、中和抗体を保持している人にAAVベクターを投与すると、免疫で除去されて効果が発揮できないという問題がある。

②搭載できる遺伝子サイズが小さい

AAVはウイルスの中でもサイズが小さい。そのため中に搭載できる遺伝子サイズの上限が他のウイルスベクターよりも厳しく、プロモーター含めて4.7kbまでである。例えば、嚢胞性線維症やデュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子は大きいため、そのままではAAVベクターに搭載できない。

③大量製造が難しく、製造コストがかかる

通常AAVは、HEK293細胞に3種類のプラスミドを導入して2−3日間培養し、HEK293細胞の中に蓄積したAAVを抽出する方法で製造する。この時非常に大量のHEK293細胞を必要とするため時間と製造コストがかかる。HEK293細胞の浮遊化や昆虫細胞(浮遊細胞)を用いるなどのアプローチが試みられている。

 

・今回紹介するStrideBioは、AAVのキャプシド(外側の殻を作る構造たんぱく質)部分を改変することにより、中和抗体に反応しないAAV作製技術を持つバイオベンチャーである。現状のAAVベクターは中和抗体を持つ可能性が低い幼児期の患者さんへの投与(例:Zolgensma)や、免疫細胞の影響を受けにくい目などの部位に注入(例:Luxturna)など、中和抗体の影響が出ないようにしているが、これでは適応できる疾患が限られてしまう。StrideBioはクライオEMのたんぱく質構造解析手法を用いて同定された、AAVキャプシドの中で中和抗体が認識する領域となりやすいアミノ酸部分を変異させることで、中和抗体に認識されないAAVベクター作製に成功している(STRucture Inspired DEsignでSTRIDE)。

 

・この中和抗体に認識されないAAVベクターのアミノ酸改変部分は、セロタイプ(血清型)間で保存されているため、どのセロタイプのAAVに対しても作製できるとのこと。

 

・構造生物学的解析法を用いて、中和抗体回避以外にも、特異的な臓器・細胞への指向性を持ったカプシドや、感染効率を増強したカプシドなどを作製する技術を持っている。

 

・StrideBioの創業メンバーであるデューク大学のProf. Aravind Asokan、フロリダ大学のProf. Mavis Agbandje-McKennaが共著で発表しているPNASの論文に、中和抗体に認識されないAAVベクターの報告があり、この研究がベースになっているのではないかと推測される(参考)。

 

 

パイプライン(非開示)

 

 

最近のニュース

CRISPR Therapeutics and Casebia Therapeutics Announce Exclusive Development and Option Agreement with StrideBio(2017年4月18日)

CRISPR/Cas技術の臨床開発を行っているCRISPR TherapeuticsとCasebia Therapeutics(CRISPR TherapeuticsとBayerによって設立されたベンチャー)がStrideBioのAAV技術のライセンス契約を締結

 

CRISPR Therapeutics and StrideBio Expand Exclusive Development and Option Agreement(2019年2月19日)

上記の2017年4月のCRISPR Therapeuticsとの契約の拡大。詳細は非開示。

 

StrideBio and Takeda Sign Collaboration and License Agreement to Advance Novel Gene Therapies for Neurological Diseases(2019年3月28日)

フリードライヒ運動失調症とその他2つの神経疾患における遺伝子治療プログラムに関して、StrideBioの持つ改変AAV技術を用いた共同研究とライセンス契約の締結。

 

 

コメント:

・AAVベクターは、キャプシドの改変によって中和抗体の認識回避だけでなく、効力(遺伝子導入効率)や臓器指向性、特異的な細胞への指向性を付与できることが分かってきており、構造生物学的解析を用いたAAVキャプシドデザインの研究者が創業者となっているStrideBioは、かなりの優位性があると思われる。一方で、AAVベクターのキャプシド変異は特許取得の競争がかなり、し烈となっている。

 

・CRISPR/Casによるin vivo遺伝子治療は、オフターゲットの可能性が捨てきれない状況のため、AAVのキャプシド変異で標的細胞への指向性を付与した方がリスクが下げたいだろう。一方で、CRISPR/Casの場合は有意な治療効果を得るためにできるだけ広範囲に高い感染効率でデリバリーすることが望ましいが、現状のAAVの遺伝子導入効率は高いとは言い難いため、効力増強のキャプシド改変が欲しいのではと思う。CRISPR Therapeuticsとの提携はその辺りも考えているのかもしれない。

 

・現状の遺伝子治療は遺伝子変異疾患(それも一遺伝子変異)での開発が主であるため、AAVの中和抗体はそれほど問題ではない。しかし、アルツハイマー病などの加齢疾患にAAVベクターを用いるのは、中和抗体の関係から難しいだろう(治験で除外される患者さんが多すぎるので)。StrideBioの中和抗体回避AAVベクターが、もし広く用いることが可能になるのなら今後の遺伝子治療のキーとなるかもしれない。

 

 

キーワード:

・遺伝子治療(アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター)

・中和抗体回避型AAVベクター

・構造生物学解析(AAVキャプシド変異)

 

 

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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