Beam Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第111回)ー

May 4, 2019

base editingというゲノムDNA、mRNA中の一塩基変異を元に戻す”切らないCRISPR-Cas技術”を疾患治療に応用することを目指すバイオベンチャー

 

 

ホームページ:https://beamtx.com/

 

 

背景とテクノロジー:

・前回のヒト体内でのCRISPR-Casの臨床応用を行っているEditas Medicine紹介の記事で示したように、CRISPR-Cas技術を用いた治療法の臨床試験が始まっている。これは変異している遺伝子の相補配列を含むガイドRNAとDNAを切る酵素(ニッカーゼ)Cas9を組み合わせて、ゲノムを編集する技術である。

 

・このヒト体内におけるCRISPR-Cas9によるゲノム編集によって治療が可能かどうかは、現在のところ検証中であるが、標的のDNA以外のDNAを編集してしまうオフターゲット効果の懸念がある。CRISPR-Cas9は、ニッカーゼというゲノムDNAの2本鎖を切ることによってゲノム編集するのだが、”DNAを切る”ということが危険性をはらんでいる。

 

・そこでニッカーゼ活性をなくしたCas9、dCas9というのが開発された(いわゆる切らないゲノム編集)。これでは何も起こらないので、dCas9に別の酵素をつないだ融合タンパク質を使うことで、切らずにゲノムを編集する方法が開発された。

 

・その一つがbase editing(塩基編集)といわれる、一塩基を変えるゲノム編集である。これはdCas9にアデノシンデアミナーゼをつなぐことで、ターゲットDNAのA(アデニン)をG(グアニン)に置き換えることができる。シチジンデアミナーゼをつなげば、C(シトシン)をT(チミン)に置き換えることができる(DNA base editor)。

 

・Cas9はゲノムDNAを認識して切る酵素だが、mRNAを認識して切る酵素もありCas13bである。そこで切らないCas13b、dCas13bとRNA編集酵素(ADAR; adenosine deaminase acting on RNA)をつなぐことで、ゲノムDNAではなくmRNAの一塩基を編集する技術も開発された(RNA base editor)。 ゲノムDNAを編集すると、その細胞では永続的に編集が固定化されてしまうが、mRNAはたんぱく質へと翻訳される一時的な産物のため、mRNAを編集することはDNA編集よりリスクが低い。

 

・Beam Therapeuticsは、これらの技術を開発したブロード研究所のDavid R. Liu(参考文献pdf)やFeng Zhang(参考文献)らが共同創業者となって作られたバイオベンチャーであり、これらのbase editing技術の臨床応用を目指している。

 

 

パイプライン:非開示

一塩基変異が原因の遺伝子疾患の治療法開発(8−10のプロジェクトが進行中とのこと)

 

 

コメント:

・切らないCas9、切らないCas13を用いたゲノム編集はいろいろな応用が考えられている。例えば、群馬大の畑田出穂教授らのグループは脱メチル化酵素(TET)をつなぐことでDNA脱メチル化を制御する技術を開発している(参考)。同様のアプローチはいろいろと広がっていきそう。Beam Therapeuticsでは、一塩基変異でストップコドンを導入し、遺伝子発現を抑制するアプローチや、一塩基変異でアミノ酸配列が変化することでたんぱく質の機能を変えるアプローチの開発を行っている。

 

・dCasとデアミナーゼをつなぐbase editorだが、ガイドRNA+dCas-デアミナーゼ融合遺伝子は、遺伝子サイズが非常に大きくなる。現在臨床で最も応用が進んでいるのはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターだが、内部に搭載できる遺伝子サイズはおよそ4.7kb以下に限定される。大きな遺伝子をどのように生体内の細胞に遺伝子をデリバリーするのかがハードルの一つ。推測だが、最初はex vivoでのbase editingから始めるのだろうが、この技術の力を最大限発揮できるのはヒト生体内でのbase editingなので、このハードルを解決しないといけない。

 

・上記のハードルを解決する方法の一つが中国のグループから報告されている。これは、生体内で発現しているADAR(内在性ADAR)と結合できるRNAを付加したガイドRNAを用いる方法(参考論文pdf)。これによりADARをコードする遺伝子を搭載する必要がなくなり、発現ベクターのサイズを小さくすることができる。

 

・切らないことでのリスク低下は確かに重要だが、この方法でもオフターゲットは思わぬ副作用を起こす可能性がある。最近CRISPR-CasでゲノムへのオフターゲットよりもmRNAのオフターゲットが多いという報告もあり、オフターゲットをどうコントロールするのかは気になるところ。

 

 

キーワード:

・遺伝子治療(切らないCRISPR-Cas技術)

・base editing(塩基編集)

・一塩基変異の遺伝子疾患

 

 

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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